Sayaka Botanicがやっているバンド「group A」は、Sayaka BotanicとTommi Tokyoの2人からなる。その始まりは意外な一夜だった。
中目黒の居酒屋で、打ち上げで盛り上がるバンドマンを恨めしげにみている女の子が3人。group A結成時メンバーの3人だ(のちに2人のバンドとなる)。レコード会社のお金で東京に来てライブをして、楽しそうにハメを外す友人らの姿にいよいよ腹が立ってきた3人はリベンジを企てる。私たちだって音楽が一番好きなのに。それが、自分たちも念願のバンドを組むことだった。
うれしくて周りに「バンド始めたんだ」と言いふらしていたらブッキングが決まってしまった。楽器を弾くことすらままならなかったけれど、音の出るものを持ち寄り、朗読や雑音をお気に入りのテープをかけながら披露したライブが記念すべき1回目。ライブがライブを呼ぶのを繰り返して現在の姿になった。今では数千人の観客でいっぱいになるフェスにも出演する、知る人ぞ知る人気バンドだ。
photo by Takako Shimizu
「私たちの音楽はエクスペリメンタルとかインダストリアルノイズってよく言われてる。エクスペリメンタルは実験的っていう意味で、インダストリアルは電子音楽のジャンルのひとつ。私はドイツ産のものが好きだけど、戦後の焼け野原から建物が建っていく時に重機なんかが作り出すカーン、ガーン、ていう音にインスピレーションをえた人たちが作ったものなんだ。」
流れに乗って順調にミュージシャンになったようにも見えるが、現実は厳しいこともあった。
「最初はうまくいかないことも多かった。技術が追いついていないのもあるし。意図的に出している音なのに勝手に切られたり、こんな女の子ふたりが音楽をわかってるのかよ、みたいな感じで色物扱いされたり。悔しかったけど、最後まで見てもらえれば私たちがどれだけ本気でやっているかわかるはず、と思いながらやってた。」
photo by Takako Shimizu
「色物扱いされた」理由のひとつは、おそらく彼女たちの出で立ちだろう。バンド結成からしばらくは上半身に何も纏わず体に直接絵の具を塗り合うのがgroup Aの特徴的なパフォーマンスのひとつだった。それはライブの見せ場にもなったが、結果多くの誤解を生むことにもなった。
「ふたりのアジア人の女の子が、おっぱいが出ているような挑発的な格好で音楽をやっているから、いわゆる「女性の解放」を表していると考える人が多かった。でも、私たちはそんな意識は全くなかった。おっぱいなんてただの肉体のひとつ、脂肪のかたまりでしかない、骨や皮のようなただの物体であり、それをキャンバスとして使っただけ。そこにフェミニズムやジェンダーの議論を持ち込まれるのはナンセンスでしょ。」
流れにまかせてなったミュージシャンとしての人生を彼女はとても気に入っているようだ。
「こんなに好きな事だけして生きていいのかなって時々疑問に思うくらい。徹夜する日が続いたり、毎週末ツアーに出る生活で体力的に厳しいこともあるけれど、すごく楽しい。辛いと楽しいの連続で、毎日が辛い、楽しい、辛い、楽しい・・・という感じ。楽しいということは、「楽」ではないけど、このために続けられるなと思える瞬間が時々やってくるんだ。バウンダリーを超える、と私は呼んでいる。自分が自分である、という意識がとっぱらわれて境界がなくなっていくような瞬間。」
例えばベルリンで行われたフェスで数千人がつめかけた会場で会心のライブを行った時、身体の境界がなくなり魂どうしが会話しあうような経験をした達成感を忘れられないのだそうだ。有名になるためとか、カッコよくあるためではなく、そういう体験のためにこれからも音楽を続けていく。
「まだまだやりたいことがいっぱいあるし、もっと自分がやりたいことをやれるだけの技術を身につけたい。まだまだ全然足りない。」
他人に評価されたいという気持ちはないの?と聞くと、「興味ないね」とばっさり。でもしばらくして、思い出したように言った。
「評価はどうでもいいけど、思春期にうっぷんを溜めていた自分自身のような、そういう思いを抱えた人には届けばいいなと思っている。あんなに苦しい時期があっても、いつかは裸でバイオリンを弾いて暮らす人生が待っていることもあるというのを見せられたらいいな。」
Sayaka Botanic
住所:https://www.disk-agency.de/artist-booking/artists/group-a/