彼らが手がけたZINE(自作の文章や絵、写真などをコピー機やプリンターで少量印刷し、ホチキスなどでとじた小冊子のこと)やステッカーを見ると、映像作品に登場したキャラクターがそのままグッズになっているものがある。媒体を飛び越えるかのように、作品世界を拡張させる存在となっているのだ。
「全部つながっていますね」とイラストレーションやアニメーションの大部分を担う有坂亜由夢さんは自らの作品を振り返る。
映像作品とそこからスピンアウトして生まれたグッズ。その間をつなぐのは、彼らの代名詞である「アナログ」な手法、そして、アニメーションの原則である「生命を吹き込む」ことへのこだわりだった。
bg-maru
──『RELAXIN’(やけのはら)』や『NEW YOKU feat CHAN-MIKA(EVISBEATS)』といったMVは、一度見たら忘れられない、他ではつくれないだろうと思えるような作品でした。「映像作家」である最後の手段が、グッズをつくるきっかけは何かあったのでしょうか?
最後の手段ができたのが、2010年なので、だいたい8年前。当時はみんな映像ではなく、絵を描くことから入った人たちでした。だから、もともとZINEとかステッカーとか、何かモノをつくることは映像と同じくらい好きなんです。
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それに、チームメンバーのうち、私が8割くらいの絵を描いて映像をつくっていて、最終的な調整は別の人がやる。なので、チームとして映像作家といいづらいというか、微妙なところなんですよね(笑)。ZINEをつくる時は、もうひとりのメンバーが一番動きます。
──役割分担がチーム内であるんですね。グッズをつくりはじめたのはいつ頃からなんですか?
bg-maru
個人的な話をすると、小学生の頃くらいからつくっていました(笑)。一番はじめの記憶は、カレンダーをつくったこと。昔から絵を描くのがすごく好きだったんです。
──かなり前から(笑)。当時は、どんな絵を描いていたんですか?
友達4人くらいと一緒に交換漫画日記のようなものを描いていました。コマを割り振って、私はセリフを描いて、友達で回しながら穴埋めをやっていくみたいな。
コマに描けることを自由にしていて、長い間ずっとやっていたんです。そうすると、定番のキャラが出てくるんですよね。いわゆる主人公的な女の子とその肩に乗るキャラ(笑)。
漫画の中でキャラだけの話と、自分だけの話と、いろいろと複雑になってきて、さらにキャラの方が可愛くなってきたから、キャラクターグッズを作ろうということになったんです。
──どんなグッズだったんですか?
私は、ポストカードとかカレンダーをつくっていました。母がフリマに参加していたので、カレンダーを売ってみたんです。一個300円くらいで。親の友達のおじさんがはじめて買ってくれたんですけど。
──まさにグッズ制作の原体験ですね。ちなみにどんなキャラだったんですか?
目がデカいカエルのキャラで……。
──それ、今も売ってませんか?
たしかに同じですね(笑)。キャラには名前があって、目がデカいから「メデカ」って名前でした。中高になったら逆に恥ずかしくなってやらなくなっちゃいましたけどね。
──今、販売しているグッズにも映像作品に登場したキャラが出てきますよね。
bg-maru
映像でつくったパーツがいっぱいあって、それをそのままZINEに貼ったり、コラージュしたりしてつくっていますね。キャラもそうですが、背景など映像に出てきたモノで構成しています。
──映像とZINEをつくる際に意識していることはありますか?
最後の手段の映像は、何層かのレイヤーから成っているんです。背景があって、人物がいて、手前になにかがあって…。ガラス台に素材を置いて、何層かに分けています。これは、ZINEでも意識してるんですよ。
映像はコラージュの連続でもあるし、絵が重なった時のレイヤー感の面白さを意識して作っています。ZINEではわざとページごとに紙の大きさを変えたり、見開きでページを作ってみたりだとか、遊びを入れたいというのはすごくあります。このZINEは内側へ、穴に入っていくようなイメージでつくっていますね。
──映像作品とつながりを持ちつつ、ZINEでしかできないこともやっている。
そうですね。たとえば、この漫画もここを入り口にZINEの中に入っていくみたいな、冊子としての奥行きを考えてますね。
bg-maru
──映像とのつながりは、ZINE以外のグッズでもあるのでしょうか?
京都のお店「VOU」と一緒につくったグラスは、『RELAXIN’』と同じテーマでつくりました。のんびりした感じで、ビールに浮かぶサラリーマンみたいな。
もともと映像をつくる時に、アーティストのやけのはらさんとお話していたら、古い映画が好きで植木等の映画や音楽を見聞きしていたそうで。そこから「リラックスして優雅に行きましょう」というテーマが生まれたんです。
──テーマ的なつながりもあるんですね。グッズをつくるとき、最後の手段ならではのアナログな手法が生きているように思えました。
そうですね。パソコンよりも紙でやることを重要視していて。今、パソコンを主体に制作している方と一緒にやっているのですが、やっぱりつくる感覚は違いますね。私たちは、一枚の絵として完成されているものの方がしっくりくるという癖がついてしまっていて。
映像を撮影していると、一応、コンテで計画を立てるのですが、やっていくうちにどんどん楽しくなっていってズレていくこともあります。そのときは、コンテの描き直しつつ、撮り直しがきかないので、一発勝負でやってますね。
──映像をつくるときに決めていることはありますか?
アニメーションの語源の「アニマ」は、魂という意味で、生命力を吹き込む、ということは意識しています。映像自体を生き物のように活性化させるという意識はありますね。つねに揺らいでいるというか、どこかが動いていてほしいんです。
『NEW YOKU』のMVを見ていわれたのが、「作品が子どもに見える」ということで。メンバーのひとりが夫でもあるので、2人でつくっていることが、お腹の中から分娩、出産まで立ち会ってるみたいだ、と(笑)。
──そう考えると、グッズのひとつひとつも子どもに見えてくる気がします。
bg-maru
売っちゃってますけどね(笑)。ただ、たとえばZINEで1500円もするって相当高い値段だと思っていて…。漫画だって500円くらいですよね。私たちの
ことを好きで買ってくれていると思うし、それ相当のものをあげたいという気持ちはあります。なので、ZINEに映像で使った素材を貼ったりと、一点物にすることでそういう気持ちに応えらたらいいなと思っています。
最後の手段
有坂亜由夢
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