hey MAGAZAINEやぁ

「ここに来れば何かがある」そんな期待感とともに足を運ぶことのできる本屋がある。ユトレヒトは、他では手に入らない目新しいZINEやアートブックを取り扱い、既存の流通には乗らない書籍を紹介してきた。

オンライン全盛の今だからこそ、選りすぐりの本をセレクトする審美眼は、数多の選択肢がある中でひとつのガイドとしての役目を果たしてくれるだろう。さらに、目当ての本を探すのではなく、新しい出会いやインスピレーションを求め、棚に並ぶ本を眺めるという体験も、本屋ならではのものだ。

小さな本屋だからこそできること。その可能性を最大限に生かすユトレヒトは、場所としての本屋を軸にしながら、さらに独自のあり方へと進もうとしている。

bg-70

──大規模な本屋とは違う、個性的なセレクトが魅力的ですが、取り扱う本はどういったものが多いのでしょうか?

国内外のインディペンデント出版社の本や、自費出版による作品集など、ZINEやアートブック系が多いですね。出版社から直接仕入れたり、アーティストからの持ち込みもあります。あとは、いくつかの海外出版社の国内流通も担当していて、日本の書店への卸販売も行なっています。

bg-66background

──本のセレクトは、どのように行なっているのでしょうか?

基本的には毎週スタッフミーティングをする中で決めています。各々が好きなテイストや詳しいジャンルがあるので、皆の意見を聞きつつという感じです。

bg-80

──セレクトの基準はありますか?

ユトレヒトで扱う意味というのは考えます。ほとんどの本は、あらゆる手段で簡単にオーダーできますし買えない本は無いと思うので、それでも扱いたいものを選んでいます。

本そのものの質や良し悪しのみで選ぶだけではなく、仮にあともう少し!と感じるものでも置くこともあります。最終的にはシンプルに面白いか、面白くないか、ですが(笑)。

──最近、これは置かなければ、と思う本はありましたか?

木戸富士夫さんの『公園遊具』というシリーズ。ひたすら遊具を撮り続けるもので着眼点が面白いですよね。デザインもご自身でやられているので、ほどよく手作り感があるのもよくて(笑)。こういう他ではないものは見ていて惹かれます。

post-2-post-07@2x

──ユトレヒトはギャラリーを併設しています。他でも書店併設のギャラリーはだんだんと増えてきましたが、ユトレヒトの特徴は何かありますか?

うちのギャラリーは、レンタルスペースとしてはやっておらず、基本的には自主企画の内容のみです。書籍の出版に合わせてや、作家に依頼したり、出版社のかたから企画のご提案をいただくことも多いですね。海外のアーティストが来日するときに合わせて一緒に何かやろうと連絡をもらうこともあります。

アーティストや出版社のみに内容をすべてお任せすることはなく、どうしたら面白い企画になるかを、一緒に考えながらやっています。

bg-60

──本屋以外の事業もやられているとのことですが、どんなことをやっているのでしょうか?

いくつかあります。ひとつは「Tokyo Art Book Fair」の共同運営。もうひとつは、選書の仕事で、例えば、企業のライブラリーにアートブックを並べる際のセレクトを担っています。本屋の立ち上げ時に企画から携わることもありますね。

あとはリーフレットのディレクションなど編集系の仕事も。その時は、ユトレヒトと付き合いのある作家さんに何かをやってもらうこともあります。他には、渋谷ヒカリエの8階に「aiiima」というショーケース・ギャラリーのディレクションを担当しています。

──かなり幅広くやられているんですね。基本的には本屋の事業が軸となっているのでしょうか?

そうですね。本屋という場所があるからこそ、作家さんとの出会いがあったり、企画が生まれたりすることが多いです。編集関係の仕事は本を扱っている、という背景も大きいです。本屋ならではの関係もありますしね。

post-2-post-05@2x

──ユトレヒトは独立系書店の先駆け的な存在ですが、大型の書店の存在はどのように捉えているのでしょうか?

最近は、大きな書店でも少部数の本を積極的に扱うのを目にするようになり、本をつくる人たちにとって置いてもらえる場所が増えるのは、とてもいいことだなと思っています。

お店の規模が大きすぎると探している本がなかなか見つからず、買う動機付けを得ることが難しくなってしまうこともあるかと。その点、小さいからこその良さというのもあります。セレクトの時点で、ある程度数が絞られることで「このお店が選ぶのであれば、何かいいものがあるかも」と思えることが、買う動機のひとつになると思うんです。

bg-allbg-all

──「何かがありそう」という期待感を持ってここに来るのはわかる気がします。

本屋って買おうと思っていた本が、実際にそこにあると「やっぱり置いてあった」という信頼感みたいなものがあると思うんです。うちの場合は「何かあるかも」というお店への期待感を持ってくれたらいいなと。

──実際にお店へと足を運んでくれた方々と接する際に、意識していることはありますか?

僕個人では、あまり話しかけ過ぎないこと。来店して自分の趣味をいきなりおすすめしてもな、という気持ちもあるので、まずいろいろ手にとって見てもらって、そのひとの好みから広がっていくといいですよね。棚を見て気になるものからおすすめしていく…というほうが面白いかなと思います。

本の並べ方としては、なんとなくコーナーをつくってはいるのですが、一般的なジャンル別にしているわけではないんです。検索性には優れていないというか。本の内容や作家のつながり、たとえば同時代に活動した作家同士や、影響を受けたであろう作品の隣に置くとか。本棚を見ていく中で、横の本に広がっていくような本から本へのつながりを感じて頂けたら嬉しいですね。

post-2-post-06@2x

  • ユトレヒト

  • 黒木晃

  • 住所:東京都渋谷区神宮前5-36-6 ケーリーマンション2C

  • HP:http://utrecht.jp/

  • 使用サービス:Coiney

書店ユトレヒトに2012年より勤務。ユトレヒトが手がける(株)良品計画 MUJI to GO 企画”HOW to GO”、ショーケースaiiimaのディレクション業務のほか、TOKYO ART BOOK FAIRの企画運営を担当。松戸のアーティスト・イン・レジデンス『PARADISE AIR』のドキュメントブック編集、WEBメディア『M.E.A.R.L.』の編集業務などにも携わる。
More Articles