hey MAGAZAINEやぁ

雑貨屋で、カフェで、おしゃれな友達の家で。ブラウン管テレビで流れる音楽専門チャンネルの左下、MVの監督のクレジット欄の常連といえば「UGICHIN」の文字だった。90年代のパンクロックシーンを映像で作った映像作家に会いにいってみた。

初めて作ったのがハイスタのMV

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大御所然とした姿を想像していて拍子抜けしてしまった。目の前に現れたスケボー好きのお兄さんという感じのいでたちで、UGICHINさんは「なんでも聞いてよ!」とコーラを飲み干す。さっそく聞き始めたMVを作り始めたきっかけも、思っていたより相当カジュアルだった。

「音楽専門チャンネルでアルバイトを始めたのが21歳の時。PUNK ROCK TVというコーナーを持たせてもらいながらアシスタントをやってたの。はじめは、仕事がうまくいかなかったら辞めちゃおうかな、くらいのテンションだったんだけど、25歳の時自ら手をあげてMVをまかせてもらえることになって。それで初めて撮ったMVがHi-STANDARDの『Growing Up』」

狭いライブハウスでもみくちゃになってる人たち、ド迫力のアングル。ストレートでセンチメンタルなMVに乗って、Hi-STANDARDの楽曲はあっという間にシーンを作っていった。

「最初はハイスタのMVしか仕事なかったけど、彼らのシーンが盛り上がっていって、仲間内のミュージシャンが仕事を頼んでくれるようになっていったんだ。当時、今度は女性アーティストの仕事をしたいなとずっと周りに言っていた。その念願が叶って撮れたのがCoccoちゃんのMVだった。自分が好きなものを表現する、そうすると周りがそれをみて声をかけてくれる、そんなラッキーの連続でやれることが大きくなっていったんだよね」

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現場でみんなで盛り上がって、これ最高じゃない!?って

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アイディアソースとかあるんですか、と月並みな質問もしてみた。

「僕もみんなと同じようにスペシャ(スペースシャワーTV)や、MTVから影響受けてるよ。オフスプ(The Offspring)とかGreen Day、RancidとかのMVを見て、このアングルかっこいいな、このカメラワークかっこいいな、と研究してそれを真似してみるわけ。最初は真似事でも、現場で立場関係なくみんなで夢中になって作っていると自分たちなりの味が出てくる。それを見て、みんなで盛り上がって『これ最高じゃない!?』って言いながら作ってきただけ」

デカい仕事をしても、戻ってくる場所はライブハウス

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インターネットなんてなかったから、紙の資料で集めたロケ場所に車を走らせたり、今ならCGで作れてしまうような演出も綿密な絵コンテを使って実現させたり。夢中でMVを作るうちに、パンクロックのシーンがみるみる大きくなって、使える予算もどんどん膨れ上がった。

「予算が何百万円も出るようになって、8mmだったフィルムが35mmで撮れるようになったりしてさ。でもMVを作る楽しさはいつも同じ。なんでもないことだけど『こんなところで撮ってみたい』って思い描いた夢が現実になること。例えばバンドが倉庫で演奏しているシーンも、よく考えればそんな状況は現実にはありえない。こうしたらカッコよさそうだなとか、こう撮ってみたらどうだろうなんていう、ちょっとした感受性から生まれるアイディアをみんなで実現するのが楽しさだよね」

使える予算が大きくなって、次々にメジャーなアーティストをまかされるようになった時、気付いたことがあった。

「ある時、安室奈美恵さんのMVの仕事と同時進行で、PIZZA OF DEATH(※)のthe原爆オナニーズっていうミュージシャンのMVの仕事もやっていたの。予算は10倍くらいの差があったけど、僕はそれがすごく嬉しかった。上を目指したい、認められたいっていう気持ちで仕事に夢中になっていたけど、いつでもここに戻れるっていう実感があったから」

※日本のインディーズレーベル。代表取締役社長は横山健。

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「ここ」というのは、パンクロックシーン、そしてそれが生まれるライブハウスのことだ。
彼は、音楽が不要不急と言われたこの2020年のライブハウスを、ドキュメンタリー映画『DOCUMENTARY OF GOOD PLACE Live Together,Rock Together 』に撮りおろした。

「いつか映画を作るのが夢だったけど、こんな状況だからとなかばあきらめていた。一方で、オンラインでライブイベントをやる必要が出てきて、全国のライブハウスをつないで一斉配信するイベント『GOOD PLACE』の構想がでてきたんだ。そのアイディアをいろんな人に話して練っていくうちに、これを記録したらドキュメンタリー映画になるじゃないかと気づいて、すごく嬉しくて」

ヒットチャートに名を連ねるアーティストのMVも撮影した。ワンシーンのためにヘリから東京の街を空撮したことも、莫大な予算で海外で撮影することもあった。そして今、全国のライブハウスで今音楽をかき鳴らすミュージシャンとそのスタッフたちにカメラを向けたドキュメンタリー映画を公開する。そのフライヤーには「主役はライブハウスだ」の文字が印刷されていた。

▼『DOCUMENTARY OF GOOD PLACE Live Together,Rock Together 』上映情報
6/1 新宿LOFT
6/16 心斎橋Pangea
6/25 苫小牧ELLCUBE
7/3 桜坂セントラル
チケット代1000円+ドリンク代600円。OPEN/STARTは各会場へお問い合わせください。

  • UGICHIN

映像作家、PVディレクター、演出家、株式会社FOOLISH GLORY STUDIO代表。初監督作品「DOCUMENTARY OF GOOD PLACE-Live Together,Rock Together-」6/1より全国で上映開始。
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