「最終的に、0円で服を売りたいんです」――。将来のプランを見据え語るオーナーの口からセレクトショップらしからぬ言葉が飛び出した。
古着と国内外のインディペンデントなブランドのアイテムを取り扱うショップとしてスタートした「THE FOUR-EYED」は、その役割を限定しない。単にアイテムを「売る」だけではない新しい価値をつくり出そうとしているのだ。
話を聞いていくと、その言葉にはファッションが元来培ってきた時代への順応性と問題解決を図る起業家のマインドを兼ね備えた独自の視点が見えてきた。その根本には、マジョリティではなく、マイノリティであることーー守りに転じず、攻め続ける「好奇心」があった。
──取り扱うアイテムのセレクトはもちろんですが、ショップ以外の取り組みもユニークさを表すひとつの特徴となっていると思います。最近はどういった活動が多いのでしょうか?
ブランドとのコラボレーションによる販売と、最近はビジュアル制作が多いですね。今はとくに動画なのですが、写真や動画の需要が高まっていて。
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──雑誌『STREET』等でフォトグラファーとしても撮影されてきた経緯が生きているんですね。仕事を引き受けるうえで何か基準はあるのでしょうか?
ビジュアル制作に関しては、たとえフィーが低くても、店舗の販売でマネタイズできる若手のブランドは協力したいと思っています。すぐに自分の利益に着地しなくても、自分の周りが成長すれば土台もしっかりするし、強い気がするんですよ。ブランドが成長していけば、勝手に僕も上がることがあるんです。一方で、大手メーカーさんからは、そもそも育てるみたいなことは求められてないですしね。
──もともとオープン当初から、お店としての機能は一番に考えていたのでしょうか?他の機能に特化させることも考えられると思うんです。
そうですね。とりあえずお店として求めたのは自分がリスクを背負っていける範囲の広さで、歌舞伎町は条件として上位に上がってくる土地だったんです。
場所は歌舞伎町だし、入り口はわかりにくいし、もともとこの物件を借りる段階でビビりまくってました。改装中の時も本当にこんなところに人が来るのかなと、どんどん日を追うごとに自信がなくなっていってたんですけど。でも、初日からメディアに掲載されたり、たくさん人が来てくれたりと反響があって。
──歌舞伎町にオープンしたのは、かなりパンチがありますよね。
場所はどこでもよかったんですよ。最初はやっぱり原宿とか表参道とかを考えていたのですが、オリンピックのこともあって建て替えも多かったし、あんまり腰を据えてできる感じではないな、と。だから、アットホームとかで検索しながら探して(笑)。ここは最終的に足で探して見つけたんです。
──この場所にした決め手は何かあったんですか?
リスクがあることですかね。それはなんとなく時代に合っていたんだと思っていて。今は事業をはじめるにあたってリスクがかからなくなってきているじゃないですか。時間的にも、コスト的にも。
その中で、自分のやりたかったことはマジョリティよりもマイノリティなこと。であれば、なおさらリスクをとる方が意味はあるかなと。それに何かパブリックな場所があるということは大きいし、強いことじゃないかなって。
──「場所がある」というのは最初から重視していたことなんですか?
そうですね。たとえば、今はSNS上でハッシュタグの「#おしゃれさんと繋がりたい」を通して繋がったりと、同じ趣味趣向のレイヤーの中でつながっていくことは簡単にアクセスしやすくなったと思うんです。でも、そこにはドラマがない。「自分の人生を変えられちゃったな」みたいな出会いって人生の中で思い出や背景があるってことだと思うんですよ。
あと根本的なことを言うと、自分で事業をはじめるにあたって、ファッションスナップ・ドットコムの社長にありがたい言葉を頂戴しまして。それは、起業家の定義。なんだかわかりますか?
──会社を立ち上げる人……ではなく、ないものをつくるとか?
「世の中の問題を見つけてそれを解決する手段を提供する人」なんですよ。さすがに自分は孫正義さんみたいな人類レベルの問題のスケールではないですが、ファッション業界において文化面でマイノリティな人たちの問題は、人材だな、と。
過去、ショップスタッフは憧れの職業だったけど、今はそうでもない。嗜好性の高い職業だからこそ、夢がないとね。そういった部分が、現実的な要素に負けて魅力がなくなって良い人材が来ないんです。
自分と同世代の人が「今、面白い子はいないよね」とか「本当におしゃれな子が少ないよね」と口々に話していたのですが、それを問題としてとらえた時にわかったのは、そういう状況をつくったのは自分たちだし、あなたたちだよ、ということ。良い人材を輩出していけるようなことを残すことで文化レベルが上がっていくと思うんです。この場所は、その取り組みのひとつなんです。
──このお店に来た人が創作意欲を掻き立てられたり、ファッションへの情熱を持ってもらえたりするような場所にしたい、といった言葉は過去にもおっしゃってましたね。
今、スタッフが自分以外で3人いるのですが、雇ううえで決めていることがあるんです。それは、肩書きをふたつ以上持っていること。うちの場合は、モデルやスタイリストがいて、自分もフォトグラファーとしてもお仕事をもらっています。
そこで僕がシステム的にチャレンジすべきなのは、スタッフにどう時間を提供してあげられるか。本人たちへのベーシックインカムみたいなものを与えないといけないと思っていて。基本的な仕事はここで与え、最低限必要とするお給料を渡しながら、本人たちの時間をつくってあげたい。
──いままでの話を聞いていると、「売る」ということにそこまで重きを置いていないようにも思えます。損得の計算の基準が違うのかな、と。
そうですね。もちろん計算はしますが、幸いそこまでキツいな、という状況がいままでなかったことはあって。仮に売り上げに重きを置いてしまうと、守りに転じてしまうので。
──とはいえ、一定の売り上げを確保することを考えると、保守的な部分も生まれてきてしまいませんか?
そこは時代を信じています。たとえば、日本一おいしいクッキーをつくったら、それを隠すことって難しい時代だと思うんです。ひと昔前だったら埋もれるのは簡単だった。じゃあ今は?優先すべきは、クッキーが何枚売れるかではなく、味なんですよ。
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──売り上げよりも、中身をまずは考える。
それは何かとえば、価値先行型ということですよね。価値をつくってしまえば、お金はついてくる。だから、とにかく価値が優先です。
最終的には、お店をやってなくてもいいや、という状態になれたらいいなと考えています。もともとここで買い付けている服は、スタイリングのための衣装になることが目的で。すぐの話じゃないですけど、こいつらを0円にしたいんですよ。一番価値が高いのは、0円だ、と。
──普通はお金を出せば買えてしまいますからね。
そう。生命ってお金では測れないじゃないですか。だから、売りたくないんです(笑)。それに気に入った人にあげるって状況は強烈じゃないですか?
THE FOUR-EYED
藤田佳祐
住所:東京都新宿区歌舞伎町2-8-2 パレドール歌舞伎町1F
使用サービス:Coiney